ハッカーの労働観

概要

『リナックスの革命』はハッカー的労働観の解説を試みた本である。

プロテスタンティズムの労働観と以前の労働観と比較している。 ハッカー文化の特徴の1つである労働観は、以前の労働観と類似している。

まずプロテスタンティズムの労働観とはどのようなものか。それは労働中心主義であることだ。人生は働くためにある。労働そのものに意味があるから、労働そのものの内容は特に重視されない。むしろ、上からの指示を疑いなく、時間どおりに遂行することが重要となる。これは修道院などで多く見られた態度である。 これは現代の労働観にもほとんどあてはまる。

いっぽうハッカー文化と類似するそれ以前の労働観とは何か。 労働と余暇を分離させない、働くことではなく内容が重視される、時間に拘束されない、ことなどだ。 靴職人が仕事途中に一杯ひっかける、ようなことはざらにあったらしい。 ハッカーの労働観はこれに類似している。

ハッカー的学習

実利的な意味で、ハッカー的な学習方法についてふれているのも興味深い。 リーナス・トーヴァルズはどうやってプログラミングをどうやって学んだか? プログラムを書く方法に関しては独学で、10歳のときから課題を設定して、情熱を持って学んでいったという。

Linuxだって、そういう講習を受けたわけでなく、個人的なプロジェクトだ。でもなんだって自分で開発したわけじゃない。 ほかの人のコードや知識を利用し、公開し、助けを求めた。Linuxはそうやって大きくなっていった。

基本的に独学だが、そこにとどまるということではなく、ほかの人の力を借りることに躊躇がない謙虚さ。バランスなんだろう。

自己啓発とプロテスタンティズムの類似性

プロテスタンティズムの労働観と、自己啓発の類似性を指摘していた。ここがけっこう興味深い。 よく読んでた時期があるからだ1)。 たとえば、何か目標を立てる、その目標を毎日口に出す、ひたすら信じる、といったことは修道院なんかでよく行われていたらしい。

自己啓発本の怪しさって宗教っぽいからかと妙に納得した。 どうしようもなく縋るとことかも。形を変えた現代の宗教なんだ。

名言

  • もうひとつハッカー倫理が思い起こさせてくれるのは、今ここにあるのが我々の人生なんだということだ。人生はつねに進行中で、仕事はその一部にすぎない。ほかの情熱を入れる余地もあってしかるべきだ。仕事のしかたを改めるのは、ただ労働者を尊重するだけの問題ではなくて、人間を人間として尊重するという問題だ。ハッカーは「時は金なり」などという金言には納得しない。彼らがうなずくのは、「自分の人生、好きにするさ」というせりふのほうだ。そしてたしかに、今我々は自分の人生を生きているのだ。
  • 人生をどう組み立てるかというこの最初の問いはとほうもなく重要だ。金儲けをおもな目標にすれば、自分がほんとうは何に興味があったのか、どんなふうに人に認められたいと思っていたのか、いつのまにか忘れてしまうものだ。たんに金儲けだけを考えて始めた人生には、ほかの価値を付け加えることがむずかしい。それにくらべたら、自分が面白いと思うことをやって食べてゆくほうが、あるいはそれで利益を上げることのほうがずっとたやすい。
  • 資料を読むとき、それを批判し改良する、つまりその資料を使って何かをする、自分で何かをする、自分でやりたいことを見つける、という目的をもって読むハッカーのスタイルは、たんに教材を読むだけという一般的なやりかたより、学習意欲を高めるうえでははるかに役に立つだろう。
1)
『7つの習慣』とか『道は開ける』とか。結局続かなくてやめたんだが、うまくやりたい、どうにかしたい、というのはよく思う。
article/linux_evolution.txt · 最終更新: 2020/06/10 14:43 (外部編集)